5 アフガンハウンドの強がり

ぼくはこっそりと、ばあちゃんの家を出て、バラック小屋まで行ってみた。

犬たちはまるで飼い主の帰りを待ちわびていたかのように、さかんに尻尾を振り、近寄ってきた。

ぼくはわんダフルを取り出して、スイッチを入れた。

「腹減ったよー」

まず最初に、こんな言葉が耳に飛びこんできた。

ぼくはわんダフルについてるマイクに向かって言った。

「もしもし。ぼくの言ってることがわかるか?」

犬たちはいっせいに喋りだした。

「わかるさ。 そんなことよりも、何か食わしてくれよ」

「何時間待っても、誰も来やしない」

「お若いの あの小屋の中のご飯を食べさしてくれんか。子どもでもそれくらいのことはできるじゃろ?」

ぼくはとりあえず犬たちの空腹をまぎらわすため、小屋に入り、重いドッグフードの袋をかついできた。

一袋目が空になり、犬たちにせかされて二袋目を開けた。

すっかり満腹した犬たちは、満足して地面に寝転がっていた。

その無防備な様子は飼い犬そのものだ。

野良犬には出来ない芸当だろうな。

さて何から尋ねようか。 犬が好みそうな話題といったらなんなんだろう。

とりあえず、足元にいる毛の長い犬に声をかけた。

「ちょっとたずねたいことがあるんだけど」

犬はきょとんとしていた。

ぼくの言葉が、通じているのかどうかはっきりわからない。

同じことを大きな声で言うと、何も答えないで向こうへ行ってしまった。

隣にいた犬にも声をかけたが、同じように逃げてしまった。

そうか 犬にじゃなく、わんダフルに話しかけなきゃダメなんだ…。

ぼくはわんダフルを目の前にかざして、犬たちに声をかけた。

今度は反応がよかった。たちまち僕の周りに集まってきた。

背すじのすらっとしたアフガンハウンドが、群れの中からさっそうと出てきた。

犬たちのリーダーなのかな。

「なんだい? たずねたいことって」

アフガンハウンドがいった。

「この犬を捜しているんだ」

僕はウィンキーの写真を見せた。

夜であまりよく見えないせいかもしれない。

アフガンはじっと写真をにらみつけ、やがて静かに言った。

「ウィンキーって名前のやつだろう。すばしこくって、太っていて、大飯ぐらいのチビだ」

「そうそう。僕はその犬の飼い主で、この犬を探して遠くからやって来たんだ」

「こいつなら、3日前までいたよ」

「それは昼間人間から聞いたさ。 今どこにいるかが知りたいんだ」

「知らないって言ったら、お前さん、この先も探し続けるのか」

「もちろんさ」


「だったら教えないわけはいかないな。 ウインキーってやつはさらわれちまったんだ。ダイエットビューティーの研究所がこの近くにあるのを知ってるかい?」

僕はうなずいた。さっきばあちゃんに聞いたばかりだけど。

「これはあくまでも推測だけど、ぼうや、『推測』ってどういうことか知ってるかい」

「だいたいの見当ってことだろ」

「なかなか頭が良いぞ。 ウィンキーはな。 実験用に連れ去られたんじゃないかと思うんだ」

「実験用? 実験用ってなんだ?」

「決まっているじゃねえか」

アフガンハウンドは、大きく息を吸いこんだ。

「あのまずいえさを食べさせてガリガリにやせさせるのさ。それを大衆にアピールすれば、大勢の飼い主は健康によさそうだと勘違いして、まずいのをたくさん買いこむ。俺たちはそれしか食うものがないから 仕方なくそれを食う。人間のあんたにゃわからないだろうけど、あいつのまずさっていったら、耐えがたいんだ。あいつが皿に盛られるたびに、奥さんの顔を見てこう思ったもんさ。そりゃないぜってね。耐えられるやつはいいけど、耐えられないやつは飼い主から逃げ出すしかない。俺は耐えられなかったね。ここにいるやつは皆そうさ」

アフガンハウンドはずいぶん興奮していた。

首に大きなネックレスみたいなおしゃれな首輪をしていた。

そうか、この犬も飼われていたんだな。

ぼくはアフガンが少しかわいそうになった。

「おっと、ごめんよ。 話が横にそれちまった」

アフガンは気をとりなおして言った。ぼくはアフガンにたずねた。

「家に帰りたいと思わないのかい」

「帰ったって、こんなに外をほっつき歩いて、家に入れてくれるもんか。それにまたあのまずい飯が延々と続くんだぜ。体を壊して死ぬよりましさ」

ゲート場の中に鼻をすする音が聴こえた。

犬たちは皆、目がうるんでいた。

アフガンハウンドはウソつきだった。

せいいっぱい強がってウソを言っているのが、ぼくにはありありと感じとれた。

本当は帰りたくて仕方がないくせに。

 

つづく

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